花丸な日々

花丸総研の雑記ブログです。

映画『夜明け告げるルーのうた』感想

2017年5月19日(金)から公開の劇場アニメ『夜明け告げるルーのうた』のレビュー・感想記事です。

lunouta.com

1. 「夜明け告げるルーのうた」が仏アヌシー映画祭で長編部門最高賞を受賞

なぜ今更ルーのレビュー記事なんだということですが、2017年6月18日(日)にフランスで開催されたアヌシー国際アニメーション映画祭にて、長編部門での最高賞を獲得したことがきっかけです。

this.kiji.is

【パリ共同】フランス東部アヌシーで17日まで開催されていたアヌシー国際アニメーション映画祭で、日本の湯浅政明監督の作品「夜明け告げるルーのうた」が長編部門最高賞のクリスタル賞を受賞した。また、片渕須直監督の「この世界の片隅に」が同部門の審査員賞を受賞した。

湯浅監督アニメ作品に最高賞 仏アヌシー映画祭 - 共同通信 47NEWS

正直この映画の感想記事は執筆途中で力尽きてしまい、そのままお蔵入りするつもりでした。しかし現在は全国凱旋リバイバル上映をしているとのことで、せっかくなのでちゃんと記事におこすことにしました。

というわけで、内容を思い出しながらレビューしていきます。 

2. 「夜明け告げるルーのうた」のストーリーと内容

本作は湯浅政明監督の初オリジナル劇場映画。

 

『マインド・ゲーム』『四畳半神話大系』『ピンポン』などで発揮された、湯浅監督の持ち味である独特な線やパースといったアニメ技法はそのままに、主人公カイが人魚ルーとの交流を通じて自らの気持ちを素直に口にできるまでの様子を描いた王道作。

 寂れた漁港の町・日無町(ひなしちょう)に住む中学生の少年・カイは、父親と日傘職人の祖父との3人で暮らしている。もともとは東京に住んでいたが、両親の離婚によって父と母の故郷である日無町に居を移したのだ。父や母に対する複雑な想いを口にできず、鬱屈した気持ちを抱えたまま学校生活にも後ろ向きのカイ。唯一の心の拠り所は、自ら作曲した音楽をネットにアップすることだった。

 

 ある日、クラスメイトの国夫と遊歩に、彼らが組んでいるバンド「セイレーン」に入らないかと誘われる。しぶしぶ練習場所である人魚島に行くと、人魚の少女・ルーが3人の前に現れた。楽しそうに歌い、無邪気に踊るルー。カイは、そんなルーと日々行動を共にすることで、少しずつ自分の気持ちを口に出せるようになっていく。

 

 しかし、古来より日無町では、人魚は災いをもたらす存在。ふとしたことから、ルーと町の住人たちとの間に大きな溝が生まれてしまう。そして訪れる町の危機。カイは心からの叫びで町を救うことができるのだろうか?

映画『夜明け告げるルーのうた』公式サイト

3. 夜明け告げるルーのうたの感想と評価

感想として「人にはあまり薦めないけど面白いよ」という風に書こうと思っていたのですが、公式サイトの監督インタビューにて先回りされていました(笑)

 

また上記インタビューでの監督の言葉「 自分が感じた「好き」は、言い訳なしで「好きと言っていいはずなのに」という言葉はこの映画の主題でもあるので、自分の好きに正直に、感想を述べてみたいと思います。

3-1. 湯浅ファンは必見のアニメーション映画

まずアニメーションとしての出来は素晴らしいです。いわゆる作画オタクを自称する人であればまず見て損はない内容になっています。

 

特に劇中ではルーたちが操る「キューブ状の水」が描かれるのですが、この水の描写はまさに圧巻の一言。アニメーションもここまできたかと感じさせるクオリティです。

 

しかしそのハイクオリティさとは裏腹に製作にかかわるスタッフはむしろそこまで多くないという事実に驚きです。これには動画を全編「Flashアニメーション」で作るといったの製作上の取り組みが功を奏した結果なのだと思います。

 

このFlashアニメーションにおける描画データはピクセルではなくベクターです。そのためイラストの質を維持したまま拡大や縮小が自由自在というメリットがあります。そのため従来の手書き作画よりもはるかに負担の少ないアニメーション技法と言えます。

近年クオリティとそれに伴うアニメーターの負担が増加する一途の日本アニメーション業界。その打開策につながるのでは?と素人目線ながら期待してしまいます。

3-2. 最大の見せ場で流れる主題歌「歌うたいのバラッド」

この曲ありきの映画と言っても過言ではありません。

この曲の歌詞こそが、本作のテーマそのものです。

 

主人公であるカイのがむしゃらに叫ぶような歌声にも注目ですね。

3-3. 大衆向けと湯浅テイストの狭間で【ネタバレにつき閲覧注意】

本作は基本的に2パターンの客層を想定しているように思えました。一方が「大衆向け」、もう一方が「従来の湯浅ファン向け」としての側面です。

 

内容としては本作はハッピーエンドの物語であり、絵柄も比較的癖のないものです。これは「君の名は。」のヒットを受けて、「大衆向け」を意識した側面もないとは言いきれないと思います。映画自体も、湯浅監督をポスト新海誠と喧伝するような宣伝手法がとられているような印象がありました。

 

一方で従来の「湯浅政明作品」を知るファンから見れば、そもそも大衆向け作品を作れるのか?という疑念もあったかと思います。筆者は『四畳半神話大系』で湯浅作品と出会いファンとなったため、後者にあたります。そして結果としては、本作は紛れもなく湯浅テイストを色濃く残した作品であったため、十分満足して楽しむことができました。

 

しかし「君の名は。」などをきっかけに鑑賞を決めたいわゆる「大衆ファン層」から見れば、少々わかりづらい作りではなかったかと思います。

3-4. カイの心情変化について

本作は主人公カイが人魚であるルーとの交流を通じて、思ったことを素直に言葉にできない不器用な性格から、徐々に変化していく様子が描かれていきます。このストーリーのアウトラインは問題なく理解できるのですが、劇場ではこの心情変化がどこか唐突に感じられる場面がいくつかありました。

 

また登場人物がみな個性豊かということもあり、映画前半部ではなかなか感情移入がしづらく慣れるまでそれなりの時間を要しました。もちろん後半はストーリーの盛り上がりも相まって、手に汗握る展開が繰り広げられるのですが、前半部のハードルの高さがある種のモヤモヤ感として脳内に居座り続けていました。

3-5. 人魚の設定

正直のこの人魚の設定にはかなりしびれました。というのも、本作における人魚の特徴として、

  • 人魚に食われる(噛まれる)と人魚化する
  • 人魚になると不死身になれる(魚が骨だけになっても動き回れる)
  • 人魚は日の光を浴びると焦げて死んでしまう

このようなものがあります。少し設定理解に齟齬がある可能性はありますが、これは人魚というよりもいわゆる吸血鬼やヴァンパイアに見られる特徴です。

 

具体的にはルーに食われた魚、そして犬さえも、嚙まれたことで人魚化します。「え、魚も犬も人魚化するってことは〇〇も…」そう思った方もいるかもしれません。

 

筆者もそうした設定からある種のダークファンタジー的世界観を予感しました。しかし結論から言えばこれらの設定がダーク方面に生かされることはありません。なぜなら本作はハッピーエンドで終わるためです。

 

筆者のようにどこかひねくれた捉え方、オタク的楽しみ方をする人であると、この映画には肩透かし感を覚えてしまうかもしれません。「夜明け告げるルーのうた」は明るい物語でありながら、このようなどこか不気味な雰囲気が付きまとう作品であることが大きな特徴です。

4. 総括

思い出しながら書いたのでどこかおぼつかない書き方になってしまいました。

 

湯浅監督の映画作品はこの「夜明け告げるルーのうた」の前に「夜は短し歩けよ乙女」も公開されていましたね。恥ずかしながら「夜は短し」の方は、疲れがたまっていたこともあり劇場でまさかの寝落ちしてしまったんですよね。。。

 

そして起きたら男二人がミュージカル調で歌いながらなぜかキスしていたので、「なんか汚いララランドみたいだなあ」と思いながら見ていました。

 

ルーの歌も、夜は短しも、劇場またはDVDで再び見たいと思います。どちらもちゃんともう一度見るので湯浅監督許してください。

【参考文献】