花丸な日々

花丸総研の雑記ブログです。

「ベルギー奇想の系譜」展感想

www.bunkamura.co.jp

「ベルギー奇想の系譜 ボスからマグリット、ヤン・ファーブルまで」 を鑑賞してきたので感想・レビュー記事です。

1. 「ベルギー奇想の系譜」展の概要 

 

 奇想とは、普通では思いつかないような奇抜な発想という意味である。この展覧会は15世紀末からフランドル(フランダース)で活躍した画家ヒエロニムス・ボスが始めた絵画上の「奇想」の伝統を、今日のベルギーを中心とする地域の画家に長く受け継がれることとなった原点としてその展開を辿っていくものである。

 

 ボスの生まれたセルトーヘンボスの町が現在ではオランダ領になってしまっているように、またリールがフランスの都市になったように、この地域はオーストリア、スペイン、フランス、そしてオランダと様々な国々の支配を受けてきた。一方、この地域は絵画やタペストリーが重要な産業として栄えていたが、異国の為政者のもとにあって、ときにはキリス卜教的図像体系から離れた、豊かな空想の絵画世界が展開し、人々はそこに遊んだ。中世末期、誰もがまだ、画家が写実的に描く地獄や天国の存在を、そして怪物がいることを固く信じていたのである。

コラム | ベルギー奇想の系譜 ボスからマグリット、ヤン・ファーブルまで | Bunkamura〉より

花丸総研もそこまで美術作品に詳しいわけではないのですが、以前ベルギーを訪れたことがあったので「おっ!」と思い観てきました。

 

それと本展示の目玉となっている『トゥヌグダルスの幻視』にも惹かれました。パンフレットで表紙となっているヒエロニムス・ボス工房の作品です。

1-1. 開催場所・期間・料金

2017年3月19日(日)から5月7日(日)まで宇都宮美術館にて、2017年5月20日(土)から7月9日(日)まで兵庫県立美術館にて、そして7月15日(土)から9月24日(日)までは東京渋谷にあるBunkamura ザ・ミュージアムにて展示されています。

 

今から行かれる方は東京展になりますね。

開催期間

2017/7/15(土)-9/24(日)
*7/18(火)、8/22(火)のみ休館


開館時間

10:00-18:00(入館は17:30まで)
毎週金・土曜日は21:00まで(入館は20:30まで)

 

会場
Bunkamura ザ・ミュージアム

 

 

入館料入館料
入館料(消費税込)

当日 前売・団体一般 1,500円 1,300円大学・高校生 1,000円 800円中学・小学生 700円 500円

開催概要 | ベルギー奇想の系譜 ボスからマグリット、ヤン・ファーブルまで | Bunkamura〉より

現地に行けないという方は、↓下記の動画から館内の様子を見ることができます。

2. 「ベルギー奇想の系譜」展・感想

本当に軽い気持ちで観に行ったのですが、実際行ったらなかなか楽しかったです。

 

タイトルにある通り奇想で、そして言い方を変えればある種のグロテスクな描写も含む作品もあります。しかしそのどれもに寓意が含まれているような気がして、その真意についてあれこれ考えながら見るのが楽しかったです。

 

館内では写真を撮っていないので、鑑賞後売店で購入した「ベルギー奇想の系譜」展覧会図録の写真をもとに、気に入った作品について軽く紹介していこうかなと思います。

http://www.bunkamura-ichiba.jp/shop/home/485/item_img/2275764_detailImage1.jpg

「ベルギー奇想の系譜」図録(295) 

2-1. 『トゥヌグダルスの幻視』ヒエロニムス・ボス工房

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↑画像は〈「ベルギー奇想の系譜」図録(295) 〉29頁より

本展示の目玉作品です。

 

ヒエロニムス・ボスはドイツの古都アーヘン出身の画家の家系で、本名はヒエロニムス・ファン・アーケン。

 

初期ネーデルラント美術の伝統を踏襲した写実主義に重きを置く油彩画の技に根差しながら、豊かな想像力で人間、鳥、魚、昆虫や身の回りの道具などを自由に組み合わせて描いた独創的な悪魔や怪物の姿は生き生きした生命力に富んでいると解説されています。

 

左下でまどろむのは修道士マルクスが12世紀半ばに記した『トゥヌグダルスの幻視』の主人公、放蕩の騎士トゥヌグダルスです。

 

作品の中に散りばめられた各モチーフは、7つの大罪またはそれに関連する懲罰が描かれています。

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↑画像は〈「ベルギー奇想の系譜」図録(295) 〉29頁より

中でもこの口がラッパになっている謎の生き物が花丸総研の大のお気に入りですね。

 

携帯の待ち受けにしようかかなり迷いました(まだしていません)。いわゆるキモかわいい!を体現していますね。

2-2. 『大きな魚は小さな魚を食う』ピーテル・ブリューゲル(父)[原画]、ピーテル・ファン・デル・ヘイデン[彫版]、ヒエロニムス・コック[発行]

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↑画像は〈「ベルギー奇想の系譜」図録(295) 〉47頁より

こちらはタイトルが秀逸ですね。

 

大きな魚の口元、あるいはナイフで切り裂いた腹からは小さな魚があふれでてきます。

 

また遠景にも数々の細かな描写が加えられており、隅から隅まで見ていたくなる作品です。写実的にも見えますが、よく見ると空飛ぶ魚が描かれているなど、不可思議な世界観となっています。

2-3. 『怠惰』ピーテル・ブリューゲル(父)[原画]、ピーテル・ファン・デル・ヘイデン[彫版]、ヒエロニムス・コック[発行]

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↑画像は〈「ベルギー奇想の系譜」図録(295) 〉51頁より

ここからは「7つの大罪シリーズ」。写真の上の作品が『怠惰』です。

 

やる気のない怠惰な人間の隣に異形の怪物が寄り添っています。

 

後ろの方で怪物(?)におしりを刺される大きな人間(?)も興味を引きます。なんか「進撃の巨人」とかにありそうですね。

2-4. 『傲慢』ピーテル・ブリューゲル(父)[原画]、ピーテル・ファン・デル・ヘイデン[彫版]、ヒエロニムス・コック[発行]

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↑画像は〈「ベルギー奇想の系譜」図録(295) 〉51頁より

こちらは『傲慢』。

 

手前には鏡に映る自分の顔に酔いしれる怪物もいますね。

 

傲慢に対応する孔雀の姿も確認できます。

2-5. 『貪欲』ピーテル・ブリューゲル(父)[原画]、ピーテル・ファン・デル・ヘイデン[彫版]、ヒエロニムス・コック[発行]

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↑画像は〈「ベルギー奇想の系譜」図録(295) 〉52頁より

写真上より『貪欲』。

 

みんなせっせと金貨を集めていますね。

 

中央手前のドレスの上に金貨を乗せる貴婦人の姿が印象的でした。

2-6. 『大食』ピーテル・ブリューゲル(父)[原画]、ピーテル・ファン・デル・ヘイデン[彫版]、ヒエロニムス・コック[発行]

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↑画像は〈「ベルギー奇想の系譜」図録(295) 〉52頁より

こちらは『大食』。

 

大食というわりにはみんな飲んでいる気がしますね。

 

描かれている川は水なのか、血なのか、はたまた酒なのか。

 

地獄というのはこういう場所なのかもしれません。

2-7. 『邪淫』ピーテル・ブリューゲル(父)[原画]、ピーテル・ファン・デル・ヘイデン[彫版]、ヒエロニムス・コック[発行]

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↑画像は〈「ベルギー奇想の系譜」図録(295) 〉53頁より

こちらは『邪淫』。

 

 みなさん裸で励んでいますね。

 

この作品では心なしか怪物くんのバリエーションが増えているような気がします。単に人間と怪物の区別がつかないだけかもしれませんが。

2-8. 『舞踏会の死神』フェリシアン・ロップス

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↑画像は〈「ベルギー奇想の系譜」図録(295) 〉67頁より

この作品はフランスの象徴主義の詩人・シャルル・ボードレールの散文詩集『悪の華』の1節とともに発表された《踊る死神》の背景となっているとのことです。

 

以下、「ベルギー奇想の系譜」図録(295)より引用。

 生きている人と同じく、上品な姿が自慢で、

大きすぎる花束と、手巾(ハンカチ)と、手袋を持った

骸骨、桁外れの様子だが 瘦せすぎの御洒落女の

屈託もなく鷹揚で しかも小粋な風情がある。(鈴木慎太郎訳)

2-9. 『娼婦政治家』フェリシアン・ロップス[原画]、アルベール・ベルトラン[彫版]

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↑画像は〈「ベルギー奇想の系譜」図録(295) 〉73頁より

黒のストッキングと手袋をつける目隠しをした全裸の女性は当時パリに多くいた娼婦、豚は食べることと交尾をすることという本能しかないものという象徴である。

 

しかしそれらが足元の彫刻や音楽、絵画が描かれた擬人像を踏みつけている。

 

娼婦を揶揄する物かと思いきや、本作のタイトルは「娼婦政治家」。私利私欲に目がくらんだ政治家に対する痛烈な批判ともとれる。

2-10. 『大家族』ルネ・マグリット

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↑画像は〈「ベルギー奇想の系譜」図録(295) 〉123頁より

ルネ・マグリットはベルギーにおけるシュルレアリスムの代表的な画家。

 

空、海、鳥、というマグリットの常套句ともいえるモチーフを用いた本作は、そのタイトルが「大家族」である。うーむなぜこのタイトルになったのか気になります。

2-11. 『見つからないもの』マルセル・マリエン

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↑画像は〈「ベルギー奇想の系譜」図録(295) 〉128頁より

実用的でない眼鏡を「見つからないもの」とするタイトルが脱帽。

 

タイトルはマグリットがつけたものですが、作者はマグリットの触発されシュルレアリスムグループの一員となったマルセル・マリエン。

2-12. 『プレッツェル』ウィム・デルヴォワ

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↑画像は〈「ベルギー奇想の系譜」図録(295) 〉131頁より

写真だとわかりづらいのですが、キリストの磔刑図がメビウスの輪のようにつなぎ合わせられた作品です。

 

キリストをぞんざいに扱っているようにも見える本作、そのタイトルはドイツの焼き菓子である「プレッツェル」。当時は批判や反発も多かったとか。

2-13. 『無限』トマス・ルルイ

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↑画像は〈「ベルギー奇想の系譜」図録(295) 〉143頁より

馬(?)の体に人間の骸骨を乗せた作品、タイトルは「無限」。

 

動物なのか、人間なのか、神なのか、見ていて想像を掻き立てられますね。

2-14. 『生き残るには脳が足りない』トマス・ルルイ

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↑画像は〈「ベルギー奇想の系譜」図録(295) 〉143頁より 

タイトルからして風刺が効いていますね。

 

脳が一番大きい生物はクジラだったかと思いますが、大きさと知能は必ずしも比例しませんね。

 

『生き残るには脳が足りない』では脳が肥大化するあまり体では支えきれず頭が沈んでしまっています。際限なく欲望する人間に対する痛烈な皮肉が読み取れます。

3. 総括

というわけで、わりと楽しかった『ベルギー奇想の系譜』展でした。

 

実は鑑賞しに行ったのはだいぶ前だったのですが、記事にし忘れていたので慌てて文章におこしました。そういう記事が多いので、しばらくは「花丸な日々」での更新が増えるかもしれません。

 

また本記事のレビューでも用いた「ベルギー奇想の系譜」図録(295) 」は2017年9月24日までオンラインでも期間限定販売しています。これ1冊で展示内容も押さえられるほか、解説も読んでいて楽しいので展示に行けない方はこちらで買ってもいいかもしれません。

 

下記リンクから購入できます。
www.bunkamura-ichiba.jp