花丸な日々

花丸総研の雑記ブログです。

「さよならの朝に約束の花をかざろう」感想

2018年2月24日(土)より公開の映画『さよならの朝に約束の花をかざろう』の感想・レビュー記事です。5. 映画『さよならの朝に約束の花をかざろう』の感想【ネタバレあり】」では本編のネタバレが多分に含まれています。閲覧注意です。

【更新履歴表】

*2018年2月18日・初投稿

*第1稿完成【2018年2月24日・追記】

1. 岡田麿里初監督作品「さよならの朝に約束の花をかざろう」

さよ朝こと、映画『さよならの朝に約束の花をかざろう』は脚本家にしてヒットメーカーでもある岡田麿里さんによる初監督作品です。製作は高品質なオリジナル作品を世に送り出してきたP.A.WORKS。ピーエーワークス単体による劇場アニメは本作が第2作目であり、2013年3月9日公開の劇場版『花咲くいろは HOME SWEET HOME』以来の5年ぶりの劇場作品となります。

1-1. さよ朝の主なスタッフ

監督・脚本 岡田麿里
チーフディレクター 篠原俊哉

キャラクター原案 吉田明彦

キャラクターデザイン・総作画監督 石井百合子

メインアニメーター 井上俊之

コア・ディレクター 平松補史

美術監督 東地和生

美術設定・コンセプトデザイン 岡田有章

音楽 川井憲次

音響監督 若林和弘

アニメーション制作 P.A.WORKS


マキア 石見舞菜香

エリアル 入野自由

レイリア 茅野愛衣

クリア 梶裕貴

ラシーヌ 沢城みゆき

ラング 細谷佳正

ミド 佐藤利奈

ティタ 日笠陽子

メドメル 久野美咲

イソル 杉田智和

バロウ 平田広明

映画『さよならの朝に約束の花をかざろう』公式サイト〉より引用

2. 映画『さよならの朝に約束の花をかざろう』のここが楽しみ!

映画を見る前に、筆者である花丸総研の「ここが楽しみだな~」というポイントを紹介します。

2-1. 岡田麿里という脚本家が織りなすオリジナルストーリー!

岡田麿里さんといえば、アニメが好きな人であれば一度は見覚えがあるのではないか、というほどに数々の有名作品に携わっています。

シリーズ構成としてかかわった主な作品は次の通り。

  1. 2008年「true tears
  2. 2008年「とらドラ!」
  3. 2008年「黒執事」
  4. 2009年「CANAAN
  5. 2011年「花咲くいろは
  6. 2011年「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」
  7. 2011年「GOSICK -ゴシック-」
  8. 2011年「放浪息子」
  9. 2013年「凪のあすから
  10. 2014年「selector infected WIXOSS」
  11. 2016年「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ」*1

いわゆる岡田麿里作品の特徴としては、登場人物の心情表現の細やかさが挙げられるかもしれません。個人的には女の子同士のドロドロとした感情ややりとりが好きなので、その意味では「selector infected WIXOSS」が好きですね。

2014年4月放送のTVアニメ「selector infected WIXOSS(TVアニメ第1期)」、2014年10月放送のTVアニメ「selector spread WIXOSS(TVアニメ第2期)」に続く劇場版「selector destructed WIXOSS(2016年2月13日公開)」はTVアニメシリーズを踏襲しつつ、新規カットなどによって補完された作品なのですが、とてもよかったです。

 

このように魅力的な作品を手掛けてきた脚本家・岡田麿里さんによるオリジナル作品ということで、どのような物語を手掛けるのか非常に楽しみです。また岡田麿里さんは P.A.WORKS製作にアニメにも数多く参加しており(上↑のピンク字の作品です)、スタッフとの相性もばっちりではないかと思います。

2-2. 凪あすスタッフによるオリジナル作品!

映画としては岡田麿里さんによる初監督作品ということで、『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』『心が叫びたがってるんだ。』の岡田麿里監督!と宣伝されていますが、花丸総研からしてみれば『凪のあすから』スタッフによる映画という印象ですね。

『凪のあすから』は本当にいいアニメでした。特に2クール目、特に第14話が素晴らしかったですね。物語、作画、背景美術に至るまでかなりの完成度を誇る作品で、今でも大のお気に入り作品のひとつです。

hnml.hateblo.jp

東地和生美術監督の作品展もよかったですし、同じく「さよならの朝に約束の花をかざろう」でも東地さんが美術監督を務めるということで、背景美術にも注目ですね。

2-3. 主演は「クジラの子らは砂上に歌う」の石見舞菜香さん!

さよ朝で主人公であるマキア役を務めるのは新人声優の石見舞菜香(いわみ まなか)さんです。

正直に言えば名前は存じ上げなかったのですが、さよ朝のPVを見たときに「どっかで聞いたことある声だな~」とは思っていました。結論から言うとTVアニメ『クジラの子らは砂上に歌う』のヒロイン・リコス役を務めていた方でしたね。

TVアニメ『クジラの子らは砂上に歌う』は2017年10月放送のTVアニメ。雰囲気と世界観がすごい好きでしたね~。

ちなみにさよ朝の主題歌である「ウィアートル」を歌うrionos(リオノス)さんは、同じく『クジラの子らは砂上に歌う』のED主題歌を担当されていました。

石見さんは2017年に声優活動を本格化したようですが、なかなか演技が上手いと思いますし、rionosさんの「ハシタイロ」もめちゃくちゃ好きな曲だったので、さよ朝の主題歌である「ウィアートル」にも期待です。

つまり好きなアニメに出ていた声優さんやアーティストさんが出ていると知って、さらに楽しみになったという話です。

3. 映画『さよならの朝に約束の花をかざろう』の内容

さよ朝こと、映画「さよならの朝に約束の花をかざろう」では主人公マキアがイオルフの里を離れ、外で出会った赤ん坊(=エリアル)を育て、人を愛することの大切さに気づいていく物語。

 

ドラゴンや数百年の寿命を持つイオルフの民(おそらくエルフ的な種族)といった要素が登場するため、世界観はファンタジー寄りです。しかし内容は親子愛、母親、愛といった普遍的なテーマが貫かれており、物語としては人間ドラマが中心になります。終盤には本編の積み重ねを踏まえた、感動的なシーンが展開されており、涙を誘うようなアニメ映画に仕上がっています。

 

展開については非常に王道というか、わりと予測できる展開ではないかなあと思います。しかし予想はできていても楽しめる、そんな力強さを秘めた作品だと感じました。

3-1. さよ朝の評価

筆者の感想としては次の通りでした。

個人的には岡田麿里×P.A.WORKSの最高傑作といっても過言ではないと思っています。

岡田麿里さんは今まで数多くの作品にて、感情を揺さぶるような人間ドラマが描いてきました。本作「さよならの朝に約束の花をかざろう」ではその根底にある「人を愛するとはなにか?」というテーマに真摯に向き合い、その答えを提示しています。

 

この意味では、岡田麿里というクリエイターの集大成といっていいかもしれません。

 

本作に想定される批判ポイントとしては、1.序盤に出てくる専門用語の難解さ2.(唐突に見える)テンポの早い展開3.世界観・設定への疑問などが挙げられると思います。

 

特にドラゴンについては、筆者も設定や描写について疑問符がつく要素となりました。ただしクライマックスのカタルシスはそれを補って余りあるものだと思います。本編は2時間弱の尺で「多数の登場人物×時間軸の変化」が展開されるため、少し理解に時間がかかるかもしれません。しかし作品としての完成度は高く、劇場版オリジナル作品としでは非常に素晴らしいものだと思います。

 

おそらくですが、いい意味でも悪い意味でも岡田麿里さんの作風が前面に出ている気がします。それにP.A.WORKSの品質が上乗せされたという感じ。

4. さよ朝の用語集

ここではさよ朝に登場する用語について、筆者が備忘録的にまとめています。

 

「イオルフ」:数百年の寿命を持ち、少女・少年の姿のまま生き続ける長寿の種族。金髪が特徴。人里を離れ、ヒビオルを織る生活を続けている。

 

「ヒビオル」:イオルフが織った布のこと。品質が高いためか、市場では高く売れるとのこと。イオルフは時が過ぎても身体的に変化しないため、ヒビオルによって自分の時間を記録する。劇中ではマキアがヒビオルから文章を読み取るなど、文字情報も織り込むことができるようだ。これは筆者の予測ですが「日々を織る」から来ていそうですね。

 

「レナト」:ドラゴンの姿をした古の生物。メザーテ国はレナトを保有することで他国に対して軍事力を誇示してきた。

 

「メザーテ」:レナトを使役することで周辺諸国を支配してきた。映画冒頭ではイオルフの長寿の血を求めてレナトによってイオルフの里を襲撃する。

 

「ヘルム農場」:マキアとエリアルが迷い込んだ農場。農場の女主人であるミド、その息子であるラングとその弟が暮らしている。

 

「赤目病」:レナトが発症する病。レナトの目が赤くなり見境なく人を襲うようになるため、死体は地中深くに埋葬する。たぶん狂犬病みたいなもの

 

次の章からは本編のネタバレを含みますので閲覧注意です。ネタバレが嫌な方はブラウザバックをお願いします。

5. 映画『さよならの朝に約束の花をかざろう』の感想【ネタバレあり】

ここからは映画『さよならの朝に約束の花をかざろう』の感想を紹介します。筆者の記憶をもとに記述しているため、自信がない箇所については(?)をつけています。

5-1. 3人の母親の対比が見事

さよ朝の本編では3人の母親が登場します。

  1. マキア
  2. ミド
  3. レイリア

マキアは本作の主人公ですが、イオルフの里からレナトによって脱出し、その後盗賊団によって襲撃された村で赤ん坊を拾います。そのためマキアと赤ん坊であるエリアルに血のつながりはありません。マキア自身も母親を知らないとのことで、イオルフの里では長老であるラシーヌの世話になっているようでした。イオルフの里では泣き虫といった性格もあいまってか、気の弱い少女という印象でした。しかし映画冒頭ではマキアは15歳(?)ですが、エリアルを育てていくうちに母親らしい振る舞いや感情を身に着けていくことになります。

 

ミドはヘルム農場の女主人であり、夫をレナトによって亡くしています(?)。その後2人の息子を女手一つで育て上げ、マキアの母親像を形作る重要なモデルとなります。ミドと息子のラングは血縁関係がありますから、こちらはいわゆる自然な意味での母親ということになります。

 

レイリアはマキアの友だちであるイオルフの少女ですが、メザーテ王の命令によりイゾル(メザーテの軍人)に連れ去られてしまいます。その後イオルフの長寿の血を求めたメザーテ王の妃として迎えられ、後にメザーテ国の姫となるメドメルを身ごもります。

しかしメドメルは長寿の特性を引き継げなかったことから、レイリアは王宮からうとまれ、城に幽閉され娘に会うこともできませんでした。形式としてはある意味でもっとも不幸な母親像ですが、レイリアもまた娘の幸せを願う母親へとなります。

 

この3者が対比されることで改めてマキアの目指そうとする母親像が際立つわけですね。そして実はマキアの愛情とは母親像を超えた「人を愛すること」の本質であったわけです。エリアルは「なぜ実の母親でもないマキアが自分のことをこれだけ真摯に大切にしてくれるのかわからない」と葛藤しますが、マキアは「相手を考えることが自分を考えることに繋がる」「エリアルがマキアにとってのヒビオルだった」と返しています。月並みな感想ですが、これを劇場版で描いたのでめっちゃすごいと思う。

5-2. 性癖がゆがみそう

下記のアニメイトタイムズのインタビューによれば、岡田監督は「展開の生々しさを緩和するためにファンタジーな世界観にした」という趣旨の発言をしています。

その狙いはおそらく正しいと思うのですが、やっぱり生々しいよね笑(褒めてます)

簡単にまとめると次の通りです。

  • 腹を痛めずにひいおばあちゃんにまで上り詰めたマキア
  • 血のつながりはない母親(金髪美人)(不老)(童顔)と同居するラング
  • 血のつながりはないけれど、息子ではなく男としてみてほしいエリアル
  • と思ったら幼少期にマザコンをバカにしていたディタを、いつのまにか身ごもらせていたエリアル
  • 一方的にさらわれ子供を産んだのに、長寿が遺伝してないとわかるや腫れ物扱いを受けるレイリア
  • 自分がさらって罪悪感もあるのに、王の命令でレイリアを守るイゾル
  • レイリアがイオルフの掟に背き、子供を愛するようになったとわかるやいなや、レイリアとともに心中しようすると元恋人でヤンデレ・クリム
  • メザーテが周辺国と戦争中に畳みかけてくるようにさしこまれるディタの出産シーン

筆者は岡田麿里作品が大好きなオタクなのでむしろ大好物なのですが、よい子のキッズがこの映画見たら性癖が歪んでしまわないか一抹の不安を抱きました。

 

またディタの出産シーンでは、同じタイミングでエリアルが敵兵によって負傷して血が飛び出るシーンを差し込むことで、分娩時の出血を表現しているカットは正直天才かと思いました。

 

実は岡田麿里監督は本劇場版では絵コンテにおいてもその名がクレジットされています。下記のアニメイトタイムズのインタビューによると、ディタの出産シーンでは岡田監督が一部絵コンテを書き、作画は「あの花」「ここさけ」でもコンビを組んだ田中将賀さんが担当しているとのこと。

 

最初に見たときは正直笑ってしまったのですけど、改めて思い返すとすごいシーンでした。ディタの声優を務める日笠陽子の圧巻の出産演技にも注目です*2

 

生々しいと書きましたが、それだけ鬼気迫る描写といいますか、劇場版でよかったなあといいますか、つまりよかったです。

5-3. 巧みな時間軸:時間と心の変化

映画の冒頭のや、公式サイトのあらすじでは「縦糸は流れ行く月日。横糸は人のなりわい。」と書かれています。縦糸とは時間軸、横糸は人との関係性、本作のキーポイントは実は最初にしっかりと提示されています。

 

岡田麿里さんは「凪あす」「あの花」で時間の流れによる登場人物たちの心情変化を細やかに描いてきました。さよ朝ではこの描写をさらに一歩踏み込んで描いたところが好印象であり、凪あすファンの筆者としてはたまりませんでした。

 

エリアルがどんどん成長する(身体的に)展開は、かなりテンポの早いようにも見えましたが、マキアから見る時間の流れを観客が追体験していると解釈すればわりとすんなり納得はできます。エリアルの幼少期(母親大好き)、思春期(親離れ)、成人期(マキアという女性を客観視)をそれぞれしっかり描いていたのはとてもよかったなあと思いました。

5-4. 終わりよければすべて良し!ドラゴンは果たしているのだろう?

正直ドラゴン(レナト)については描写不足の感は否めません。赤目病については結局のところほぼ説明がありませんし、「そもそもメザーテはどうやってレナトを使役したのか?」とか「レナトがいなくなるのは国力低下につながるとして、イオルフの長寿の伝説で他国の侵攻を防げるってほんと?」とか疑問に思うところも多々あります。

ただし、クライマックスのレイリアがレナトに飛び乗るシーンは掛け値なしでよかった。レイリアがメドメルに「忘れましょう!」というシーンは、彼女なりにイオルフの掟に従った方が、メドメルも幸せになれると考えたゆえかもしれません。マキアとレイリアはそれぞれ異なる境遇と選択をしますが、どちらも母親として子供に愛情を抱いていたという点は共通ですね。

イオルフの里にいたころは崖から飛び降りることができなかったマキアが、最後はレイリアを後ろに乗せてレナトで飛び立つシーンは成長を感じられました。ツッコミどころとしては冒頭でマキアがレナトにヒビオルで絡まって連れていかれるシーンとか「ちょっと強引過ぎない?」とか思いましたけど、最後のシーンを見てしまうと必要だったなあと思い返しました。

ドラゴン(レナト)については説明不足の感はありますが、物語をつむぐアイテムとしては必須だったという印象です。

5-5. 作画・背景美術が素晴らしい

これはぜひ劇場で見ていただきたいのですが、作画・美術がすごいです。

岡田監督もアニメイトタイムズのインタビューにて、今回は脚本では表現しきれない部分を背景美術によって表現できたという趣旨の発言をしています。

これは本当にその通りで、アニメーションの可能性を切り開いたような描写ではないかなと思いました。

6. まとめ

劇場版オリジナルアニメ作品というと、なにかとハードルが高くなりがちですが、本作はその期待を超えてかなり楽しませてもらいました。一度見てから映画のキービジュアルイラストを見返すと、すごい感動します。

これはもう1回見直してみたいところですねー。

6-1. さよ朝の入場者特典

入場者特典第1弾はイラスト描き下ろしのポストカードでした。

f:id:homeless467:20180224174158j:plain

【参考文献】

sayoasa.jp

www.animatetimes.com

akiba-souken.com

*1:こうしてみると2011年は岡田麿里さんの作品がいっぱい…!

*2:しょうもないんですけど、日笠さんは「健全ロボ ダイミダラー」での経験が活きたのかな?とか思いながら見てました